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INTERVIEW 2022.07.01
「かごしま深海魚研究会」代表、大富教授が語る、錦江湾深海魚の話 〜その2〜

「かごしま深海魚研究会」代表、大富教授が語る、錦江湾深海魚の話 〜その2〜

一石を投じる深海魚の潜在価値。そして可能性

最終的な目的として、私たち「かごしま深海魚研究会」が目指しているのは漁師の後継者が生まれる産業基盤、好循環を生み出すことです。

それにはまず、漁業の現状が「深刻な状況にある」ということを広く知らしめないといけない。後継者が集まるような関心を引いていかなくてはならない。県内だけではなく、県外、Iターン希望者も含めて。それをかごしま深海魚研究会が発信していく。

温暖で南国感のある鹿児島です。観光や移住先の候補として、チャンスや強みは十分あると思っています。まず、鹿児島の特産として深海魚を打ち出し、魚への関心を集め、そこから産業の再生、好循環への機運に繋げていく。その”目玉”として、深海魚には可能性があるはずです。

目指すは東の駿河湾と肩を並べる「錦江湾・西の深海魚王国」

深海の定義は水深200m以上の海です。一方、深海魚の定義は生息水深帯で決まります。生息水深帯が200mを超えると、その魚は深海魚です。

深海魚で有名なのが駿河湾です。駿河湾は深さ2500mという国内でも群を抜く水深を持ちますが、鹿児島と静岡の両県には、桜島、富士山というすり鉢型の火山を持つという共通点があります。

両県には深海底曳網に適した陸棚斜面が広がるほか、南に向けて広い島嶼域を有するという共通点があります。島嶼域には深海から剃り立った瀬が点在し、そこを流れる水は湧昇流を起こし、好漁場が形成されます。

駿河湾には焼津や沼津といった有数の港町がありますが、沼津ではすでに、深海魚を特産として打ち出し、全国的な認知度を獲得しています。私たち「かごしま深海魚研究会」が目指しているのは、この東の駿河湾に比肩する「錦江湾・西の深海魚王国」です。

これまでの深海魚のイメージを変えるには”つかみ”が大事

さて、鹿児島には大きく分けて3つの深海の好漁場があります。1つ目は錦江湾、2つ目は薩摩半島の西側、3つ目は与論島まで続く島嶼域です。錦江湾と薩摩半島の西側では底曳網で深海性のエビや魚がたくさん獲れますし、島嶼部では釣りで型のいい深海魚が獲れます。

私たちはその深海魚を「美味しい」と伝えたい。深海魚は多くの人に”グロテスク”と認知され、”食べる”という認識はほとんどない。「食べる? これを?」という感じです。いえ、美味しいんです。美味しいということを伝えたい。

そこに必要なのは”つかみ”です。メッセージを伝えるための、興味・関心のつかみ。どれだけ錦江湾の深海魚にストーリーがあったとしても、そこに”ひき”がなければ消費者には響きません。大事なのは「消費者が何を考えているか」を捉えること。そして「自分が売りたいものを売る」ではなく、「相手の欲しい物を売る」こと。そこに深海魚の打ち出し方のポイントがあると思います。ナラティブを実践することが大事です。

漁業を思う気持ちで繋がる「うんまか深海魚」の誕生

ならばどうやって、深海魚の食材としての魅力に関心をもってもらうか。そこで立ち上がった組織が「かごしま深海魚研究会」です。

鹿児島県内の飲食店のみなさんに深海魚料理を考案してもらい、お客さんに食べてもらって、その美味しさに気付いてもらおう、販売店のみなさんに深海魚を販売していただき、家庭でも食べていただこうという取り組みです。そして、プロの素晴らしい料理を追い風に、深海魚の魅力を広めていく。

2020年11月に鹿児島大学で「かごしま深海魚研究会」の“決起集会”を開きました。「うんまか深海魚」の定義を「生息水深帯が200mを超える魚介類で、鹿児島の海で漁獲されたもの(すでに流通しているが、それが深海魚だと認識されていない魚介類と、獲れても海上投棄されている未利用な魚介類の2種類)」と定め、取り組みとして1つは「鹿児島のうんまか深海魚ございます」のポスターを掲示すること。2つは、「うんまか深海魚」と記し料理を提供してもらうことを確認しました。

会では、”理念の共有”を念頭に置きました。私たちの取り組みの根本には、危機にある漁業を思う気持ちと、魚食の文化を未来に受け継ぎたい思いがあるということ。「かごしま深海魚研究会」のプロジェクトを持続的に展開していくために、この”理念の共有”は不可欠なものと考えています。

深海魚の浸透に20年。新しい食と水産業のストーリー

13の飲食店でスタートした「かごしま深海魚研究会」のメンバーは現在50店舗以上に広がっています。和食料理店、すし屋、イタリアンや中華料理店、あるいは深海エビ入りのせんべいを作る会社、深海魚を販売する店舗など、業種は多様です。

自分が知らない魚を食べるのを躊躇する人もいます。だからこそ、知ってもらうことが大切です。そして誰の目にも魚の姿と名前が一致する頃、おそらく初めて、食の文化というものが社会に定着していることだと思います。それまでに、20年くらいはかかるでしょう。

私は水産生物の研究者です。深海魚を社会に浸透させるという取り組みは一見専門外ですが、私たちの科学研究は社会に還元してこそ意味があると考えています。

漁業の窮状を前に、様々な分野のプロフェッショナルと連携し、お互いの強みを活かし、水産業を盛り上げる新たな文化を形成していきたいです。

プロフィール
大富 潤/鹿児島大学水産学部教授
兵庫県神戸市生まれ。東京大学大学院農学系研究科水産学専攻博士課程修了。専門は水産資源生物学。甲殻類や魚類の生態、資源管理、食育に関する研究と教育を主に行いながら「地元の水産業を活性化するためには、水産資源を研究するだけでなく、地元市民(消費者)が海を向き、海を知ることも必要である」という考えのもと、講演活動、幼稚園や小・中・高等学校での出前授業、漁業体験講座や市民講座などの企画と実施にも力を入れる。「かごしま深海魚研究会」代表。

主な著書
『かごしま海の研究室だより』(南日本新聞社)、
『エビ・カニ類資源の多様性』(共編著、恒星社厚生閣)、
『水産動物の成長解析』(共著、恒星社厚生閣)、
『東京湾 人と自然のかかわりの再生』(共著、恒星社厚生閣)、
『最新水産ハンドブック』(共著、講談社)、
『九州発 食べる地魚図鑑』(南方新社)、
『旬を味わう魚食ファイル』(南方新社)、
『エビ・カニの疑問50』(共著、成山堂)。
学術論文多数。