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INTERVIEW 2022.07.01
かごしま深海魚研究会 田中 積 さん 株式会社田中水産代表取締役(鹿児島県)

かごしま深海魚研究会 田中 積 さん 株式会社田中水産代表取締役(鹿児島県)

「丸万」の屋号で1984年に創業した株式会社田中水産。鹿児島市水産物卸売市場で仲卸業を営み、2020年8月に発足した「かごしま深海魚研究会」のメンバーとして深海魚の美味しさ、魅力を発信しています。「昔と今では市場の活況は全く変わりました」と話すのは社長の田中積さん。創業より37年を経て、田中さんが見る水産市場の”今”とは?

「昔と今では全く変わりました」。魚市場、37年間の風景

「かごしま地魚ここにあり」というキャッチフレーズのもと、鹿児島市魚類市場で仲卸業を営みます。屋号は丸万です。

昔、錦江湾にはそれは多くの漁師がいましたよ。市場にはさまざまな魚種が並んで、量も多く、活気に溢れていました。しかし今では、状況は全く変わりました。まず魚屋がめっきり少なくなりましたね。「走る魚屋さん」というトラックで魚を販売する業者も、昔は200台くらいの車が走っていましたが、今は30台ほどになってしまいました。

現在の当社の卸先は、県外が3割、県内のスーパーが3割、県内の飲食店が3割、地元の魚屋が1割、という比率です。開業した当初は、卸先はほとんど県内の魚屋でした。今のように県外への出荷はほとんどありませんでした。それが今、県内の魚屋への卸は1割です。

レベルの高い鹿児島の魚。しかし漁業は衰勢の一途

鹿児島市魚類市場には品質のいい魚が集まります。例えば全国的な市場の水準において、魚の品質のレベルを”1″から”10″で区分し、”10″の魚が1番品質が良いとすると、鹿児島には”5″から”10″の魚が集まってきます。品質のレベルが平均よりも高いのです。しかし今、鹿児島県の漁獲量は減り続け、漁業は危機に瀕しています

「かごしま深海魚研究会」代表の大富教授の提唱される「漁民を守ること、漁民の方向性を育てることこそが海を守ることに繋がる」という考えは我々仲卸業にも通じています。仲卸人として我々は魚に値段をつけますが、それもただ安く買えばいいということではありません。漁業者にも暮らしがあり、持続的な利益が出なければならない。それが十分でなければ、漁業者は減り、必然と漁獲が減り、その結果、我々も営業ができなくなります。

「ヒメアマエビ」が光を当てた、市場の可能性

私たち「かごしま深海魚研究会」のメンバーは深海魚の美味しさ、魅力を発信していますが、過去に深海魚の価値が理解され、市場の領域を広げた例としてヒメアマエビの市場への登場がありました。ヒメアマエビは大富教授により2009年に命名されたエビです。しかしこのエビは、名前が付けられる前までは、漁師が海に捨てる雑魚の1種に過ぎませんでした。「かごしま深海魚研究会」では、そのような潜在的な魅力を秘めた魚に注目し、価値を発信しようとしています。

昔、市場になかった深海魚めひかり。今では

例えば、深海魚にめひかり(標準和名アオメエソ)という魚がいます。下顎が突き出て目がぎょろっと大きく、いかにも深海魚の容貌を持っていますが、この魚も、おおよそ30年前までは市場に並ぶことのない深海魚でした。”食材”よりも”グロテスク”の印象が勝り、消費者に選ばれず、流通ラインに乗らなかったためです。いくら味が良くても、味が良いだけでは消費者の購買には繋がらなかったのです。

しかし、今やめひかりは骨が柔らかくて食べやすいことからレストランをはじめ病院食や学校給食でも使われるようになり、県外へ出荷されています。その美味しさが周知され、これまでの印象を上回り、人々が買い求めて流通ラインが生まれたことで、新たな食文化が社会に浸透した、ということです。

まずは魚を知ってもらうこと。その先に希望

第二のめひかりとして今注目を集めている魚に、キュウシュウヒゲがいます。錦江湾にすむ味の良い魚ですが、まだ流通ラインには乗りません。この魚の美味しさ、魅力が飲食店、販売店などを通じて社会に浸透していけば、水産市場の裾野を広げることにも繋がると思っています。それが実現すれば、漁業者の新たな利益と産業の好循環の可能性も期待できるかもしれません。

一般的に、名前を知らない魚を消費者は買いません。だからこそ深海魚においては、まずは魚の名前を知ってもらうことが大切です。深海魚の食としての価値を発信し、社会に浸透させていく。そこを端緒に、漁業はもとより、水産業全体が活性化していくことを「かごしま深海魚研究会」の一員として願っています。

プロフィール
田中積/株式会社田中水産
1984年に株式会社田中水産を創業。鹿児島市水産卸売市場にて仲卸業を営み、屋号は丸万。セリにおいては品質・鮮度にこだわり、「かごしま地魚ここにあり」というコンセプトのもと、福岡、大阪、東京などの県外、県内の小売店、飲食店に質の高い魚を出荷する。